宀一山（べんいちさん）室生寺

所在地：奈良県宇陀郡室生村
宗派：真言宗室生寺派大本山

寺伝によると、天武天皇の発願により、役小角（えんのおづぬ）が開創し、淳和天皇の勅により弘法大師空海が再興したとある。が、創建は宝亀年間（770〜781）で、山部皇子（後の桓武天皇）が病気になり奈良興福寺の賢�m（けんきょう）らが室山で祈願したところ病気が治ったため、賢�mが室生寺を創建したというのが真実に近いようだ。
以後、室生寺は長く法相宗の興福寺の支配下にあったが、江戸元禄期に興福寺から分離して、真言宗豊山派に属し、昭和39年（1964）に真言宗室生寺派をたてその大本山となった。
古くから女性に開放された寺として、「女人高野」と呼ばれる室生寺には、河童も女であるからには一度はたずねてみたいと思っていた。
寺は、幽玄な雰囲気を漂わせる深い山の中にあった。仁王門をくぐり杉や檜の木立を歩いていくと、国宝や重文クラスの諸仏が安置されている金堂、弥勒堂、灌頂（かんじょう）堂に着く。真っ先に見学した弥勒堂の釈迦如来像は、平安初期のカヤの一木造。意外に小柄であったが、どっしりとした存在感を漂わせ、見学者はみな釘付けになっていた。
金堂でいちばんの人気仏像、十一面観音立像（国宝・平安・カヤの一木造）は、豊満な肢体に比してあどけない表情がなんともいえない。伝釈迦如来像（国宝・平安・カヤの一木造）、薬師如来立像（平安・重文・檜の一木造）、地蔵菩薩立像（平安・重文・ヒノキの一木造）、文殊菩薩立像（平安・重文・カツラの一木造）、いずれも豪華な光背や胸飾り等をつけ、優美で気品に満ちた表情をしている。
灌頂堂を出て急な階段を登ると五重塔。1998年に台風被害にあい、2000年に修復されたばかりの新しい塔だ。幸い心柱や軸部は破壊をまぬがれ、桧皮葺の屋根の修理で済んだ。今回の修理では、建築様式の解明も進み、創建時に近い形で修復がおこなわれたそうだ。塔の建立は奈良時代末から平安初期で、室生寺の中では最古の建築物。
五重塔の東側に赤い廟が見えたので行ってみると、室生寺第二祖とされる修円（しゅえん）の墓だった。修円といえば、会津の慧日寺で徳一と交流があった名僧として紹介されていた人物だ。こんなところでおめにかかれるなんて！　修円は、徳一同様最澄や空海の同時代人で、しかも彼ら二人と並ぶ高僧。空海が最澄にあてた手紙『風信帖』には、「我と金襴および室山は一処に会して、仏法の大事因縁を研究しよう」とあるそうだ。金襴は最澄で、室山は修円。修円の大物ぶりがうかがわれる資料である。最澄、空海、徳一、修円…彼らの生きた時代をこんどゆっくり調べてみたい。
五重塔から奥の院までは急な石段が延々と続いていた。若くても音を上げそうになるこの石段を、お年寄りが辛抱強くゆっくりと歩いていた。「この石段は段差が小さすぎて男性向きじゃないや」と隊長。そういえば伽藍や五重塔も、仏様もみんなどことなく小ぶりにできている。これも女人に開かれた寺ならではのことか。ここならばどんなに業深き自分でも彼岸にわたることができるかもしれないと思った。

追記 修円僧都廟とは反対の方向に、如意山へ続くらしい道が見えた。本当はその先にある如意山納経塔を見学するはずだったが、台風被害のためか大木にさえぎられとても登れそうにはなかった。奥の院ではどちらにしても納経塔は一般人は見られないと説明を受けた。その理由がふるっていた。納経塔は弘法大師様の魂であり、何人たりとも見ることはできないというのだ。信仰の対象であり、私も納得して山を降りたのだが、このほかにも弘法大師の伝説が多いのはなぜだろう。修円らが入山する前から、この山は山岳信仰の対象であったのか。時代的にみても、真言密教などと結びついて神聖視されてきたのかもしれない。

<参考文献>
『週刊古寺をゆく７　室生寺』（小学館　2001年）
『女人高野　室生寺』（室生寺　2000年）　

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